外国人留学生の採用は年々増加しており、企業にとっても新しい人材獲得の手段として一般化しつつあります。一方で、採用後の「在留資格変更」手続きは、日本人採用とはまったく異なるタイムラインと注意点が存在します。
2025年も入管庁から、
「留学ビザから就労ビザ(技術・人文知識・国際業務、研究等)へ変更する場合は、1月末までに申請してほしい」
というアナウンスがありました。
この案内は単なる目安ではなく、企業側の採用スケジュールに直結する重要な情報です。本記事では 企業側が知っておくべき実務ポイントを、グレーゾーンを含めて“そのまま”正確に記述 します。
◆ 1. なぜ入管庁は「1月末までに申請を」と強調するのか
留学生を 4 月入社で採用する場合、多くの企業が 1〜3 月 にかけて在留資格変更を進めます。
この時期に申請が集中すると何が起こるかというと——
- 審査期間が平時の 1〜2 か月 → 2〜3 か月 に延びる
- 不備があれば審査が中断され、さらに数週間遅れる
- 結果として 4 月 1 日の就労開始に間に合わない ことがある
という現象が毎年のように発生します。
4 月入社予定の外国人留学生について、企業が「1 月末まで」を守らない場合、
“ビザが間に合わず入社できない” リスクが現実に発生します。
行政書士としても、
「3 月上旬に出して間に合わなかった」
というケースを実際に何度も目にしています。
したがって、「1 月末」は“推奨”ではなく、実質的なデッドライン と理解すべきです。
◆ 2. 【グレーゾーンを含む】卒業後の「在学扱い」と「アルバイト可否」の関係
ここが企業側で誤解しやすい部分です。
多くの大学では学籍が 「3 月 31 日まで」 残ります。
このため形式上は “3 月末まで在学中” と扱われます。
◎ 【白寄りの部分】
- 学籍が残っている限り、形式的には留学ビザの前提(在学)は維持される
- 軽微なアルバイト(資格外活動許可の範囲内)であれば問題になる可能性は低い
- 実務としても多くの大学・企業が「3 月末まで短時間勤務」を認めている
◎ 【グレーゾーン部分】
しかし、入管庁の判断基準は「学籍の有無」だけではありません。
入管は “学業活動の実態” も重視する傾向があります。
- 卒業式終了
- 講義や試験はすべて終わり
- 卒業証書も発行済み
- 実質的には「学生としての活動なし」
この状態を入管庁は 「学業活動は実質的に終了している」 と評価する可能性があります。
学業実態が終了している期間に長時間働くと、資格外活動の前提がなくなるという解釈があり得る。
この部分は制度上明確に規定されておらず、完全にグレーゾーン です。
◎ 【黒寄りの部分】
- 卒業後にフルタイム勤務する
- 内定者研修として実質的な就労を行わせる
- 月 150〜160 時間レベルの勤務を行う
これらは ほぼ確実に NG
在留資格違反として扱われる可能性が高く、就労ビザ審査が不利になります。
◎ 総合的な実務判断(行政書士としての推奨)
「学籍は3月末までだが、企業は卒業後の勤務を最小限に抑えるべき」
これが最もリスクを避けられる運用です。
企業担当者:
「3 月中も普通にシフトを入れて問題ないですよね?」
行政書士:
「学籍はあっても学業実態は終了しています。安全側でいくなら時間を減らす、できれば避ける判断が必要です。」
◆ 3. 就労ビザの審査は「学生の学歴」だけでなく「企業側の体制」を厳しく見られる
就労ビザ(技術・人文知識・国際業務、研究等)の審査は企業側にも大きく依存します。
入管庁が企業に求めるポイントは以下のとおりです。
- 業務内容と専攻が適切に関連しているか
- 給与が適正か
- 社会保険加入が確実か
- 企業としての継続性・安定性
- 雇用契約書の記載内容が明確か
- 企業規模に比して外国人雇用が過剰でないか
- 過去に問題を起こしていないか
企業側の準備不足があると
申請の遅れ → 審査期間の長期化 → 入社日の遅延
につながります。
特に次の書類は準備に時間がかかりがちです:
- 職務内容説明書
- 給与規定
- 会社案内・業務内容が分かる資料
- 決算書
- 登記事項証明書
【ステップブロック推奨:企業の準備フロー】
① 内定後すぐに業務内容と専攻の関連性を整理
② 雇用契約書・給与条件を確定
③ 会社側書類(登記簿・社保資料・事業内容資料)を収集
④ 本人の卒業見込み証明書・成績証明書等を確認
⑤ 行政書士などと連携して申請書を作成
⑥ 1月末までの提出を確実に行う
◆ 4. 「1月末までに出さないと何が起きるのか」実際のトラブル
ここは非常に具体的に知っておいた方が良い部分です。
- 就労ビザの結果待ちで 4月の入社ができない
- 内定者研修が組めず教育体制が後ろ倒し
- 社会保険・給与計算にずれが生じる
- 特に派遣・SES企業では配属計画が破綻
- 卒業後のアルバイトが“黒寄りのグレー”として扱われ、審査に悪影響
- 不備調査が入り、1ヶ月以上審査が停止
企業のイメージとしては、
「留学生の採用は日本人採用と同じ感覚で進められる」
と思い込んでしまう場合が多いですが、
在留資格の問題は一度つまずくと挽回が難しい領域 です。
◆ 5. 実務的な結論:企業は「年内〜1月上旬」に動き始めるのが最適
最終的な対策はシンプルです。
・1月末=提出期限ではなく“実質的なデッドライン”
・企業側がすべての書類を早めに揃える
・卒業後の勤務はグレーゾーンを踏まえて慎重に扱う
◎ 実務上の推奨策
- 留学生に対して「卒業後の勤務ルール」を早期に説明
- 業務内容の整理は内定通知の直後に行う
- 企業側書類の作成は 12 月から開始
- 行政書士との連携を早めに確保する
- 内定者複数の場合は提出日程を分散させる
この運用により、
4 月の配属・研修スケジュールが崩れない採用体制 を構築できます。
【まとめ】
企業が必ず押さえるべきポイントは次の 3 つです。
- 入管庁が「1 月末」と示すのは、繁忙期の遅延を見据えた“実質的な期限”である
- 留学生の卒業後勤務は、学籍は残っていても実務上グレーゾーンが存在する
- 就労ビザ審査は企業側の書類と体制が大きく影響する
企業がこのポイントを理解しておけば、
外国人留学生の採用をスムーズに進め、
不要なトラブルやリスクを回避することができます。

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