障害福祉事業所の報酬改定について、いま見ておいた方がいい視点

16日、政府による障害福祉事業所の報酬改定に関する会議が行われました。
すでに業界内では話題になっている内容ですが、断片的な情報だけを見ると、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、会議資料の内容を踏まえつつ、
すでに事業を運営している事業者の視点で、今回の改定をどう受け止めればよいのかを整理してみたいと思います。

会議で共有されていた前提認識

まず、会議資料全体を通して感じたのは、次のような前提認識です。

一つ目は、
事業所数そのものは、国が想定していた一定の目標には近づいてきているものの、全体としては予算幅を超えて増えている、という点です。

二つ目は、
その増加の中で、適正に運営されている事業所と、そうでない事業所が混在している、という点です。

この二つがセットで語られていることが、今回の改定を理解するうえで重要だと思います。

実際、会議資料を見ると、予算自体は昨対で約5%増として確保されていた一方で、
事業所への支払いは約12%増となっており、支出の伸び方が想定を大きく上回っています。

単に「事業所が増えた」という話ではなく、
制度全体として、この伸び方を続けてよいのかという点に、かなりの危機感があるように感じられました。

政府としては、伸びることは予想していたが、倍以上の推移で必要な費用が伸びてしまった。他方で、不正な手法で利益を上げているとされる報道もある。

新規事業所の基本報酬引き下げという判断

こうした前提を受けて示されたのが、
令和8年6月以降に設立される一部の事業所について、基本報酬を引き下げる
という判断です。

ここだけを見ると、インパクトの強い内容に見えるかもしれません。

ただし、重要なのは、
この対応は「すべての事業所の基本報酬を下げる」という話ではない、という点です。

福祉事業の報酬体系は、利用者さんからの自己負担だけで成り立つものではなく、
その多くが保険請求、つまり公費によって賄われています。

である以上、制度全体の予算には必ず「天井」があり、
事業所数がこのペースで増え続ければ、どこかで限界が来るのは避けられません。

今回の判断は、
新規参入のペースを一旦抑え、制度全体の広がり方をコントロールしようとするもの
と受け取るのが自然だと思います。

既存事業所への影響はどう考えるべきか

現時点で示されている内容を見る限り、
すでに運営されている事業所の基本報酬が、直ちに一律で下がる
という整理にはなっていません。

もちろん、直近では
「就労B型支援については既存事業所にも影響が出るのではないか」
といった情報も一部で流れていますが、細かい点については、まだ確定的な整理ができる段階ではありません。

少なくとも、今回の会議の主眼は、
既存事業所を締め付けることそのものではなく、
制度全体の増え方をどうコントロールするかに置かれているように感じます。

事業所の増え方をコントロールすることで、急速な予算消費を防ぐのが一先ずの狙い。

不適切な運営への視線と、今後の方向性

一方で、会議の中では、不適切な運営を行っている事業所の存在も、はっきりと話題に上がっていました。

今後、そうした事業所に対して、
どのような形で対応していくのかは、これから制度として具体化していく部分です。

また、運営指導を行う行政側のリソースにも限界があります。
事業所数が増えすぎれば、指導そのものが追いつかなくなる。

そう考えると、
まずは報酬面で総量規制をかけ、増加ペースを落とす。
そのうえで、運営の中身をより厳しく見ていく。

今回の改定は、そうした流れの「入口」に位置づけられているのではないか、という印象を受けます。

今回の改定は「前触れ」と考えた方がよい

個人的には、今回の報酬改定を
「これで一段落」と捉えるのは、少し楽観的すぎるように感じています。

むしろ、
今後の指定基準、運営基準、加算の考え方を厳しく整理していくための前触れ
と見た方が、実態に近いのではないでしょうか。

次の大きな報酬改定では、
基本報酬で一律に評価する部分は抑えられ、
加算基準によって「どういう運営をするべきか」が、これまで以上に問われる。

そんな方向性が、より明確になってくる可能性があります。

あくまで、予算消費に対する「火急の措置」であって、将来的には【業界全体の適正化】をお題目にしたアクションがありえる。

今のうちに意識しておきたいこと

日々の運営で手一杯という事業者の方も多いと思います。
ただ、こうした動きが出てきている今だからこそ、

・運営体制が制度の趣旨に沿っているか
・加算の要件を、形式ではなく実質として満たしているか
・書類や体制整備が、後追いではなく日常的に回っているか

こうした点を、一度立ち止まって確認しておくことには意味があると思います。

今回の改定そのものよりも、
その先に何が来そうかを意識して準備できているか
そこが、これからの運営において、じわじわと差になってくるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

大阪を拠点に、建設業許可・在留資格・ドローン・障害福祉などの許認可手続きを中心に取り扱っています。
法律を専門的に学んだ経験を背景に、複雑な手続きの要点を分かりやすく整理し、実務でつまずきやすいポイントを拾い上げて紹介しています。
ときどき雑談や趣味の話題も交えながら、専門的な内容をできるだけ読みやすくまとめているブログです。

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