https://mainichi.jp/articles/20260121/k00/00m/040/040000c
ええ、久しぶりの更新になります。
というのも、今回、朝起きてみたら、結構大掛かりな行政書士に関するニュースが飛び込んできたので、これについて少しだけ解説というか、どういうことが起こったんだろうかという部分を整理してみようかなと思います。
弁護士法違反とされた理由の整理
まず今回、この容疑自体が弁護士法違反ということになっています。
弁護士法のこの部分って何なのかと言いますと、基本的に法律事務というのは、弁護士さんしかやってはいけませんよ、という立て付けになっています。
ここで言う法律事務って何なのか、というところまで深く立ち入ると少しややこしくなるんですが、簡単に言うと、訴訟とか交渉ごとの類は、基本的に弁護士さんしかできない、というふうに理解していただければ大丈夫です。
行政書士法の業務範囲と、今回の保険請求
僕たち行政書士を含め、こういった士業には、それぞれ士業法という、何の仕事ができるのかを定めたルールがあります。
行政書士にも当然、行政書士法というものがありまして、その業務内容として「権利義務に関する書類を作成することができる」という一文があります。
今回ニュースになっている被害者請求や加害者請求、いわゆる保険請求ですね。
これは、保険を請求する地位にある人が、自分たちの権利義務に基づいて「お金をください」と請求する内容を、書面に落とし込むものです。
そのため、一般的には行政書士の業務範囲だろうと考えられてきました。
交通事故分野が抱える構造的な難しさ
ただ、交通事故となると、相手方とこちら側、被害者と加害者の間で、損害額などをめぐって意見の食い違いが生じやすい分野です。
この意見の食い違いを整理し、調整する行為は、まさしく交渉に当たってしまいます。
そのため、交渉まで行うと弁護士法違反になるよね、という整理がされてきました。
ところで、今回のニュース記事を読むと【「異議申し立て」を繰り返し行っていた。】とあります。
本件では、この「異議申し立て」が先の「交渉」に当たると評価されたのではないかと思います。
実際僕はこの保険請求は分野として取り扱ってはいなかったのですが、扱っている先生の中では、「異議申し立て」がどのような立ち位置にあったのはちょっと気になるところ…。
行政書士が関与できると言われてきた業務ではあるものの、弁護士法で守られている、こちらが踏み込めない業務にかなり近い領域です。
そのため、やるのであれば非常に慎重に、という分野ではありました。
行政書士法の立て付けそのものが抱える問題
ここで一つ、前提として押さえておきたいのが、行政書士法そのものの立て付けです。
行政書士法は、「権利義務に関する書類を作成できる」と書いてある一方で、実際には、他士業によって実質的に独占されている分野を除く、という前提で運用されています。
つまり、弁護士さんや司法書士さんなど、それぞれが専門として担っている分野がまずあって、その「庭」に入り込まないラインで、行政書士の業務領域が残っている、という考え方です。
官公署に関する手続きについては、他の士業がほぼノータッチなので、行政書士の業務として多く残りますし、外国人関係のように、弁護士さんや司法書士さんと共管する分野もあります。
ただ、それでも原則としては、それぞれの専門士業が明確に扱っている分野には、行政書士は踏み込まない、という理解が前提になっています。
利用者にとって分かりにくい線引き
問題は、これを一般の利用者の方に理解してもらうのが、正直かなり難しいという点です。
というか、僕たち行政書士自身ですら、この線引きを完璧に理解していて、しかも分かりやすいと感じている人は、そんなに多くないと思います。
登記、確定申告、訴訟といった、誰が見ても分かり切っているものはさておき、実務上は結構微妙な分野が存在します。
例えば、車の税申告は、税だから税理士の仕事だと思われがちですが、行政書士が関与できますし、農地についても、土地だから司法書士や土地家屋調査士の仕事だと思われがちですが、農地の許可や届出は行政手続なので、行政書士の業務になります。
こういったのは比較的メジャーな例ではありますが、それでも「これって誰の業務だっけ」「ここまでやって大丈夫だっけ」と、一瞬立ち止まる場面はあります。
特に新人の方は多いですし、僕自身も実際にそうでした。
「最後までやってほしい」という期待と現実
なったばかりの行政書士ですらこうなのですから、一般の方にこの線引きを正確に理解してもらうのは、正直無理だと思います。
しかし他方で、利用する側からすれば、「最後まで面倒を見てほしい」という感覚になるのは、ごく自然な話ですよね。
ただ、その期待にそのまま応えようとすると、行政書士側は簡単にアウトな領域に足を踏み入れてしまいます。
書類を作っているつもりでも、その時点で相手方との主張の対立を前提に話を整理してしまっていたり、結果が出なかった場合の次の一手を説明し始めてしまったりする。
ここまで来ると、実質的には交渉に踏み込んでいると言われても仕方がないラインだと思います。
今回の立件につながったポイント
今回の記事を読む限りでは、被害者請求を行ったものの、請求額が満たなかった、あるいは思い通りの結果にならなかった際に、異議申立て、つまり「もう一度見直してほしい」という形で手続きを進めた点が問題になっているようです。
おそらくこの部分が、弁護士法でいうところの交渉ごとに当たると解釈され、今回の立件に至ったのではないかと思います。
行政書士が取るべき「やらない判断」
整理すると、行政書士が交通事故に関する保険請求に関与する場合、形式的に請求を行うところまでであれば話としては成立する。
ただ、その結果が伴わなかった場合、そこから先はもう手を引く、という「やらない判断」を取るしかない分野になったのだろうと思います。
もっとも、これを利用する側から見たときに、少し片手落ちに感じるだろうな、というのも正直なところです。
例えば、100万円が妥当だと思っている人であれば、当然100万円を請求して、100万円を手にしたいわけで、その点についてどうなんだろうな、と思う部分はあります。
内容証明など、他分野にも共通する話
実際、行政書士業務の中には、弁護士業務と非常に近く、慎重にならざるを得ない分野が他にもあります。
内容証明などはその代表例ですね。
内容証明自体は、権利義務を主張する書面なので、行政書士が関与すること自体は可能です。
ただ、内容証明が出てくるということは、その後に争いごとへ発展する可能性が高い。
その兆しが見えた時点で、そこから先は「やらない判断」をする、というのが今の僕の考え方です。
最後に:線を引くことも専門性
このあたりの「どこまで行くと交渉なのか」という感覚は、人によって差があると思います。
僕自身、司法試験の受験生をやっていた時期があり、ロースクールにも通っていました。結果としては負け組ですが、法的なやり取りについて、机上の空論とはいえ、ある程度触れてきました。
その経験もあって、ここまで来ると交渉になり得るな、という匂いには、少し敏感なタイプなんだろうなと思っています。
だからこそ、踏み込みそうになる分野については、最初から距離を取り、「やらない判断」をする。
それが、今の自分のスタンスです。
