改正行政書士法を考える2

昨日に引き続いて、改正行政書士法のお話です。前回は二つある改正ポイントのうち一つを紹介しましたが、今回は残りのもう一つを早めに記事にしておこうと思い、まとめています。前回の記事はこちらのリンクからご確認ください。

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何が変わったのか

今回の改正で一番大きな変更点は、「不服審査の申立権が拡張された」という部分です。
ここは明確に、行政書士の職域──つまり僕たちが仕事として関与できる範囲が広がった部分になります。前回記事の改正ポイントが「これまでの解釈を明文化しただけ」という性質だったのに対し、今回の変更は実質的に業務範囲が広がっている点で大きな違いがあります。

まず、何が変わったのか条文を比較してみましょう。
上が旧法、下が新法です。

二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

追加規程の関係で、柱条文がスライドしていますが、新旧対象はこうなります。

改正後の条文では「行政書士が作成した」という文言が修正されています。
これによって、行政書士以外──主に本人が作成した申請書であっても、行政書士が審査請求等を行えるようになったという解釈になります。

補論:不服申立制度

本題に入る前に、少し補足です。「審査請求って何?不服申し立て?」と聞かれることが多いので、簡単に例えておきますと、スポーツでいう「リクエスト」に近い制度だと思ってください。
行政に許可を申請して、不幸にも不許可の判断が下ったときに、「その判断はおかしいのでは? もう一度見て欲しい」という形で再度確認してもらうのが審査請求です。類型として再調査や再審査請求などがありますが、これらを総称して「不服申立て」と呼んでいます。スポーツのVTR判定のように、最初の判断を見直してもらう制度だと考えればイメージしやすいと思います。

制度的な意義としては、「裁判によらない権利救済」になります。
裁判を経ると、三審制の都合もあってどうやっても数年単位の係争を念頭に置く必要があるのですが、行政体の自浄作用であれば、数か月程度で解決するため、より早い救済が念頭にあります。

ただ、セルフジャッジになるので、裁定の客観性という意味では裁判手続よりはどうしても悪くなります。

なので、(状況によりますが)一先ず不服を申し立てて、その結果次第で裁判に発展する…という流れが、一つの基本形という見方もできるでしょう。

改正により解消された状況

さて、ここからが本題です。
従前の規定では「行政書士が作成した申請書に関して」という限定があったので、行政書士が作った申請書が不許可になった場合にしか請求を代理できませんでした。そして実際のところ、行政書士が関与した申請で「不許可→不服申し立て」というケースはそこまで多いわけではありません。行政書士が事前に黒いところは黒として申請前に止めますし、提出後に不許可となるケースも、例えば犯罪歴の申告漏れなど「どうしようもない事情」が原因であることも多いです。どうしょうもないものは、【リクエスト】はできませんから。
こうした事情もあって、行政書士による不服審査請求は制度として存在していても、かなり限定的にしか活用できていなかったわけです。

今回の改正では、これが「行政書士以外──主に本人作成の申請書」でも不許可であれば審査請求の代理が可能になりました。本来この領域は弁護士さんの職域に近い部分なのですが、統計的にこの分野を手がける弁護士が多くないという実情があったようで、その補完として行政書士にも門戸を広げた、という話も聞いています。

とはいえ、広がった=良いことだけではありません。僕自身、この改正は実務上いくつか悩ましい点があると感じています。

悩ましい点

一つは、そもそも「審査請求は必ず通るわけではない」という点です。必要書類の不備・不足はもちろん欠格事由が残っているなど、どうしようもないものは「不許可は妥当」と判断されるケースも多く、そこを覆すこと自体は現実的ではありません。

もう一つは期間の問題です。審査請求は、不許可処分を知ってから原則3か月以内という短い期間で判断しなければなりません。3か月は長いようで短く、申請内容を洗い直して戦略を立てるには意外と時間がありません。

さらに費用面の問題もあります。例えば建設業の新規が20万円だとすれば、「不許可→審査請求」の案件はその倍近く手間がかかることもあるでしょう。そうなると、費用として20万円を下回らず、むしろ高くなるのが自然でしょう。
そうなってくると「いっそ新規で出し直した方が早いのでは?」という場面も出てきます。許認可によっては再申請が制限されていない場合も多く、実務的にはそちらの方が合理的というケースもあります。

終わりに、行政との対応に関して

そして最後に、僕自身の課題も含めて、もう一つ難しい点があります。それは「処分性の判断」です。
行政が「これは処分ではなく、ただの判断だ」と主張する場合、請求そのものが成立しないという論点があり得ます。ここは最終的に訴訟で争うしかない場面もあり、そうなると弁護士への連携が必要になります。また、処分性の判断で行政と意見が分かれた場合だけでなく、審査請求の結論が出るまでの期間も気になります。裁判より早くというのは、制度趣旨として目標にされますが、場合によっては半年〜一年程度かかることも想定され、事業者さんがその時間を耐えられるかどうかという問題もあるわけです。

結局、再申請した方が早いケース、不服申し立てした方がいいケース、訴訟を見据えるべきケース──ここをどう判断するかはかなり繊細です。事業者さんが損をしないよう、慎重に見極める必要がありますし、僕自身もさらに研鑽を積まなければならない領域だと感じています。

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この記事を書いた人

大阪を拠点に、建設業許可・在留資格・ドローン・障害福祉などの許認可手続きを中心に取り扱っています。
法律を専門的に学んだ経験を背景に、複雑な手続きの要点を分かりやすく整理し、実務でつまずきやすいポイントを拾い上げて紹介しています。
ときどき雑談や趣味の話題も交えながら、専門的な内容をできるだけ読みやすくまとめているブログです。

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