来年1月1日から行政書士法が改正されます。行政書士法というと、僕たち行政書士が業務を行ううえでの根拠条文であり、「どこまでが行政書士の専門業務なのか」を決めている大事な法律です。
多くの方にとっては普段あまり馴染みのない法律だと思いますが、今回の改正には業界外の方にもインパクトがある部分が含まれているので、その点を中心にお話ししてみようと思います。
改正の内容のひとつ
今回の改正は大きく二つあるのですが、そのうち一つが「行政書士以外の職業の方」に直接影響する内容です。特に、文章作成に関係するお仕事をされている方や、コンサル業の方は知っておいた方がいいものです。
それの大きな変更は、行政書士法19条の書き方に修正がはいりました。
これまでも19条では次のようになっていました
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成することを業とする。
「行政書士以外は、業として(行政書士の)業務をしてはならない」と書かれていました。ただ、この“行政書士業務”の範囲が、行政書士法1条の2で「官公署に提出する書類の作成」に限定されているため、文章作成そのものを“無料”にしておいて、別名目の料金で報酬を受け取るようなスキームが一部で見られていました。
そこで今回の改正では、次の様な文言になります。
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
「いかなる名目によるを問わず、報酬を得てはならない」という文言が追加されました。つまり、名目を変えることで“実質的に有償の書面作成”になるような行為を、法律として明確に禁止したわけです。
この部分は、改正前の法でも解釈によっては導ける状態ではあったのですが、いかんせん行政書士の側の解釈となると、「利得側」になってしまうため、ちょっと説得力が弱かったんですね。
なので、今回の改正は従来では解釈として【通説】だったものを、文言化して中身を明確にしました。
例えば車庫証明を例として考えてみましょう。
ディーラーさんが「車庫証明は無料でやりますよ」と言いつつ、車両代金に上乗せして実質的な作成料を取る、というケースがしばしば問題視されてきました。これまでも「グレーだけど限りなく黒」という評価でしたが、今回の改正で完全にNGとして整理されました。
もっとも、新車のディーラーなど自動車の登録等と同時に行うパターンで、OSS…要はオンライン手続きを用いてやる場合においては、一部例外として許容されています。アカン部分もあるみたいですが…。
何はともあれ、これまでグレーと通ってた部分が結構明確に黒くなる…というのが今回の改正趣旨です。
影響の大きい職域
そして今回の改正のなかで、実は最もインパクトが大きいと言われているのが「補助金関係の業務」です。
補助金コンサルさんや、中小企業診断士さんなど、補助金の申請支援を行っている専門家の方々にとって、業務の線引きがこれまで以上にシビアになる可能性があります。
行政書士の専門業務はあくまで“書類の作成”ですから、経営分析や事業計画の方向性を助言するといったコンサル部分は全く問題ありません。しかし、「では申請書はこちらで作りますね」となると一気に行政書士法の世界に入ってきます。資料作成はともかく、申請書そのものを作成することは“行政書士の独占業務”なので、行政書士資格を持っていない方が行えば違法になってしまうわけです。
また、受け付ける方もこの改正を意識してか、最近少し厳しいというか、行政書士法違反となる申請についてはない様に関わらず却下されるという話しもあるようです。
他方:他人ごとではない
僕たち行政書士としても気をつけなければいけない部分があります。それが、外部専門家との協業のあり方です。
例えば中小企業診断士さんが作った文章を、そのまま行政書士が申請書に流し込んで提出してしまうと、診断士さん側の違法行為に行政書士が手を貸す形になってしまい、“潜脱のお手伝い”とみなされるリスクがあります。いわゆる共同正犯に近い扱いになってしまう可能性があるので、ここは慎重に線引きをしておく必要があります。
入管業務で言う“ブローカー”の問題と構造が似ていて、申請者本人と行政書士が面談もせず、ヒアリングもせず、外部から来た文章をそのまま使うのは非常に危険です。
補助金業務も同じく、申請者本人との対話や確認作業は不可避であり、丸投げの受任はリスクが高いと考えるべきでしょう。
おわりに
今回の改正に対して、「本当に国民生活に役立つのか?」という疑問も一部では出ているようです。ただ、専門的な書類作成には一定の知識と判断が求められる以上、その品質を担保するためのルールとしては理解できる面もあります。僕自身も、この改正を機に業務の質をより高めていく必要があるなと感じています。
特に補助金関係については、企業の経営状況を見るという意味では、中小企業診断士さんの方が圧倒的に専門的ですし、その分析を頼るべき場面も多いと思っています。一方で、行政への申請書類の作成や行政とのやり取り、運用上の細かな作法といった部分では、行政書士が力を発揮できる領域です。お互いの得意分野を組み合わせることで、企業にとって最善のサポートができるはずですし、今回の改正もその意識を促す役割があるのではないかと感じています。
いずれにせよ、行政書士法の改正は業界だけでなく、周辺の専門職にも関わってくるテーマです。補助金支援や行政手続きに関わる方は、一度この改正内容を確認しておくことをおすすめします。

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