入管から不法就労の統計が出てきました。入管業務でこういう数字が表に出るのは珍しいです。
僕たちが反応するのは、これが業務の頻度やラインを考える目安になるからです。ただ今回の数字は、僕たちだけでなく、外国人を雇っている事業者の方にも見ておいてほしい内容でした。
まず「不法就労」を整理する
不法入国や不法滞在は、言葉としてもイメージとしてもわかりやすいと思います。船に勝手に乗ってきた、ビザが切れたのに帰らない、そういう話です。
一方で「不法就労」という言葉は、あまり馴染みがないかもしれません。社会的には珍しい話ではないんですが、世間的にはあまり意識されていない。なので、まずここを整理しておきます。
不法就労のパターンは大きく3つあります。
① 在留資格がないのに働く
不法入国や不法残留(オーバーステイ)の状態で働くケース。今回の統計でも一番多いのはこのパターンで、退去強制を受けた人の約94%が不法残留者でした。
【要点】 在留資格がない状態での就労。退去強制者の大半がこのパターン。
② 許可を受けずに働く
在留資格自体はあって、入国も適正なんだけれど、その資格では就労が認められていない、あるいは認められている範囲を超えて働いているケース。
典型的なのは留学生です。「留学」という在留資格は、そもそも働くことが認められていません。働く場合には「資格外活動許可」を別途取る必要がある。しかもこの許可には週28時間という上限があります。あくまでアルバイトなので、本業ではないという建て付けです。
この許可を取っていない、あるいは上限を超えているパターン。統計上の数字としては大きくないかもしれませんが、現場的にはおそらく一番引っかかりやすいところじゃないかと思います。
家族滞在など、就労系以外の資格で入ってきている場合も同様です。資格外活動許可を取っていなければ、1時間も働けません。
③ 在留資格で認められた活動以外の仕事をする
これが一番見落としやすいパターンです。
在留資格自体は就労系の資格で入ってきている。でも、実際にやっている仕事の中身が在留資格の活動と合致しない。このブログでも度々書いていますが、在留資格と仕事の内容は一致していなければいけません。
以前の記事でも触れた「通訳の仕事で入ってきて、キャベツを切っている」なんてケースがまさにこれです。
本人としては「会社に言われたからやっている」という認識ですし、会社側も「基本的には本業をやらせているけど、余っているからちょっと手伝わせた」くらいの感覚かもしれません。でも、在留資格の範囲外である以上、それは不法就労です。
「知らなかった」は通用しない
不法就労について怖いのは、悪意があるかどうかが問題ではないというところです。
法律の話をすると「過失犯」という概念があります。知らなかったけれど、知らなかったこと自体に落ち度がある、というパターンですね。不法就労はこれに当たります。「知りませんでした」という言い訳は通用しません。
そして、不法就労は働いた側だけの問題ではありません。不法就労助長罪という規定があり、不法就労をさせた雇用側にも刑事上の責任が発生します。
ここが事業者にとって本当に注意すべきポイントです。不法就労助長で引っかかると、刑事上のトラブルだけでは済まない可能性がある。たとえば、何かしらの行政上の許可を持って事業をやっている場合、そちらの許可にも影響が出かねません。建設業許可でも、飲食の営業許可でも、許可の要件に「欠格事由に該当しないこと」が入っているケースは多い。不法就労助長罪で有罪になれば、その欠格事由に当たる可能性があるということです。
数字から見えること
今回の統計では、退去強制の手続きを受けた外国人が約1万9千人。そのうち不法就労が認められた人は約1万4千人で、全体の76%を占めています。
全国的な類型別の割合に加えて、地域的な割合も出ていました。都道府県別のトップは茨城県です。最近、茨城県で不法就労に関する通報制度──聞こえは悪いですが、報告すると報奨があるという仕組み──がニュースになっていたので、そのあたりと絡めての数字なのかもしれません。
ただ、この数字の見方には注意が必要です。
どこの県が多いからダメだとか、どこの事業者が良い悪いとか、そういう判断をするための数字ではありません。ある地域の数字が多いからといって、他の地域が安全だということにはならない。割合として少ない地域であっても、自分の会社は一つです。自分のところの会社が適正かどうかにフォーカスを向ける方が、よほど意味がある。
僕は大阪にいるので大阪の特徴で言えば、やはり大学が多い地域です。大学が多いということは留学生が多い。であれば、留学生を採用する時点でのハードルをしっかり整備しておくとか、留学から就労系の在留資格に切り替えて応募してきた人にどう対応するかのフローを考えておくとか、そういう地域の特性に合わせた備えをするきっかけにする方が健全だと思います。
【要点】 地域別の数字は「どこが危ない」の話ではない。自分の会社が適正かどうかにフォーカスすべき。地域の特性(大学が多い=留学生が多い等)に合わせた備えを。
対策:まず在留カードを確認してください
じゃあ具体的にどうすればいいのか、という話ですが、まずやるべきことは在留カードの確認です。
ここで一つ、僕の意見をはっきり言わせてください。
厚労省の方で、在留カードの確認が就職差別に当たるから確認してはいけない、というような方向の議論があるという話を耳にしています。
これに関しては、僕は正面から反対です。
運転免許証を持っていない従業員に車を運転させないでしょう。従業員に車を運転させようと思ったら、採用の時点で絶対に運転免許証を確認するはずです。在留カードの確認は、それと同じレベルの話です。
「厚労省が見なくていいと言っていたから見なかった。結果的に資格外活動許可を取っていない留学生を働かせてしまった。」これではダメなんです。
確認しなかったことが不法就労助長の過失として問われる可能性がある以上、確認しない方がリスクが高い。
もちろん、資格外活動許可を取っていないからといって門前払いにする、という話ではありません。取っていないなら「取れるかどうか確認しましょう」というフォローも含めて、一体として対応する。その意識を持って確認することが大事だと思います。面接の段階でやってください。雇ってから確認します、では遅い。
【要点】 在留カードの確認は運転免許証の確認と同じ。面接段階で確認する。取っていない場合は門前払いではなく「取れるか確認しましょう」のフォローとセットで対応。
業務記録を残す
もう一つは、業務記録をある程度残しておくことです。
「記録を残すと、不法就労の証拠にされるんじゃないか」と思われるかもしれません。でも、隠したところで見つかります。こういうものは推定で動いてくるので、記録が残っていなければ「やっていたんだろう」と推定されても文句は言えません。
たとえば、本当に一日だけ、本業のつながりとして在留資格外の事務作業を少しやっていた。それをどこかの誰かに見つかって通報された。その時に記録が残っていなかったら、絶対に不利に働きます。
逆に、「この人は普段こういう業務をしていて、在留資格の範囲内の活動がこれだけの割合を占めている」という記録があれば、それが防御になります。
雇用側も、雇われる側も、どういう活動をしているのかを残しておく。そして自分の在留資格の活動に合っているかどうかを確認する。これは双方にとっての保険です。
【要点】 記録がなければ「やっていた」と推定される可能性がある。記録があれば防御になる。雇用側・雇われる側の双方が残すべき。
入管が統計を出してきた意味
最後に、全体の話に戻ります。
入管業務でこういう統計が出てくるのは珍しいと冒頭で書きました。穿った見方をすれば、これは「入管としてはやるぞ」という意思表示でもあると思っています。「これからちゃんとデータを取ります。データを取るために見に行きます」というメッセージだと受け取ることもできる。
結局のところ、誠実にやるしかないというのが僕の普段からの考え方です。
在留カードを確認する。業務記録を残す。在留資格に基づいた仕事をさせる。そして定着に向けたフォローアップをする。当たり前のことばかりですが、この当たり前ができていない現場があるからこそ、1万4千人という数字が出てくるわけです。
外国人を雇用するということは、その方の在留に関わるということです。自分の事業の雇用体制を、改めて確認してみてください。
引用
本邦における不法残留者数について(令和8年1月1日現在)
行政書士 垂井事務所 建設業許可・在留資格・ドローン・障害福祉の許認可手続き https://www.office-tarui.com/


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