戦隊ロボが街を壊したら誰に請求するのか──ルパパトで考える国家賠償法


というわけで今回は雑談です。以前のポケモンの記事と同じノリで、空想の事例を行政法の法律で解いてみたらどうなるか、という頭の柔軟体操みたいなネタ記事です。 これをきっかけに行政の法律にちょっと詳しくなってもらえたら嬉しいなと思っているので、たまにシリーズ化してます。ぜひお付き合いください。

なお、個人のnoteに同様の内容を展開しています。そちらの方が読みやすいという方は、どうぞ


目次

戦隊ロボ、街壊しすぎ問題

今回テーマにするのは戦隊ロボです。

戦隊ロボが戦えば、当然、街が壊れる。 ビルが倒れ、山は崩れ、道路はズタズタ。皆さん誰もが一度は思ったことがあるはずです。**あの建物、誰が弁償するんだ?**と。

怪獣を倒してくれるのはありがたいんだけれども、巨大ロボが暴れた結果の被害をどうするんだ、という話ですね。

被害者はどこに請求すればいいのか。

実はこれ、行政法的にはちゃんと道具が用意されています。 そのひとつが国家賠償法。 国がやらかしたときに、金銭で賠償しなさいよという法律です。

戦隊が国家権力に所属している場合は、この国家賠償法を使って救済ができると考えられるんですが、非常にややこしい戦隊(番組)が見つかりました。

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャーです。 (略して「ルパパト」と呼びます)

ちなみにこの作品、クリスマスの時期に「シャケを食え」と叫ぶ怪人サモーン・シャケキスタンチンが登場したことで知られています。 街中のチキンをシャケに変えるという暴挙に出たこの怪人のセリフが広まりに広まって、ついには農林水産省の公式Xが「クリスマスにはシャケを食え」のハッシュタグを使い始め、毎年クリスマスと魚の日にはサモーンが農水省のアカウントを”乗っ取る”のが恒例行事になっています。 ある意味農林水産省公認戦隊。 その戦隊でちょっと考えてみましょう。

(こいつほんまに・・・・)


そもそも国家賠償法って何?

まず国家賠償法がどういう法律か?というところから。

国や自治体の活動で誰かが損害を受けたとき、国や自治体がそれを賠償する制度です。条文はなんとたった6条。 めちゃくちゃコンパクトな法律ですが、僕たち行政書士の試験では必ず覚えておくべき条文です。

柱は2つ。

1つは1条、公務員が職務で違法に損害を与えた場合。人の行為の問題ですね。

もう1つは2条、公の施設の設置や管理に問題があった場合。モノの問題です。 ちょっとわかりにくいので例を挙げると、公園に置いてあったブランコの紐がちぎれて、飛んでいって怪我した、みたいなケースをイメージしてもらえればいいかなと思います。

民間人同士であれば、民法上の不法行為で直接相手に請求するんですが、相手が国の活動だと国賠法の出番になってくる。

相手が公か民かで、使う法律が変わる

これが今回の話の核です。

国家賠償法のポイント ・条文はたった6条のコンパクトな法律 ・1条=公務員の行為による損害(人の問題) ・2条=公の施設の設置・管理の問題(モノの問題) ・相手が「公」か「民」かで使う法律が変わる


ルパンレンジャーとパトレンジャーの立場

さて、国賠か民法か。ルパンレンジャーとパトレンジャーで見てみましょう。

ルパンレンジャーは怪盗。あくまで民間人です。一方、パトレンジャーは警察戦隊ですから、真っ向から国の組織。作中では「国際警察」なので、厳密に国内法にあてはまるのかという点はちょっとややこしいんですが、日本国内で活動しているので、今回は日本の警察組織の一つということにしておきます。

この番組のポイントは、タイトルのVSが示す通り、ルパンレンジャーとパトレンジャーが原則として対立関係にあるということです。協力関係ではない。

で、戦隊といえばお約束、最後に怪人が巨大化してロボットで戦うわけですが、ルパパトの場合、どちらの戦隊がロボに乗るかは毎回変わります。 グッドストライカー(通称グッディ)というロボットの素体キャラクターがいまして、こいつがその回でどちらの戦隊に【グッときたか】で、そっち側について、そちらがロボに乗るという仕組みです。

つまり、番組の回によってはルパンレンジャーがロボ(ルパンカイザー)に乗る回もあれば、パトレンジャーがロボ(パトカイザー)に乗る回もある。ここが今回のミソです。


パトレンジャーが乗った場合──国賠法の世界

パトレンジャーがロボに乗って戦い、結果的にビルを壊した場合。これは国賠法1条の典型的なパターンです。公権力の行使に伴う損害。被害者は国に対して賠償を請求できます。


ルパンレンジャーが乗った場合──民法の世界

他方、ルパンレンジャーがロボに乗った場合。彼らは怪盗、民間組織です。公務員でも何でもないので、国賠法ではなく民法の不法行為で処理することになる。ルパンレンジャーたち個人に賠償責任が来ます。

パトレンの方は国が守ってくれるのに、ルパンたちは個人で払わなければいけない。**元が同じロボ、同じ被害なのに、乗っている人間が違うだけで請求先がまるで変わる。**とんでもないアンバランスです。

ロボに乗る戦隊で請求先が変わる ・パトレンジャー(警察)が乗った場合 → 国に請求(国賠法1条) ・ルパンレンジャー(怪盗)が乗った場合 → 個人に請求(民法709条) ・同じロボ、同じ被害でも、乗っている人間の「公」「民」で法律が変わる


求償権──パトレンジャーも安心ではない

ちなみに国賠法にも例外はあって、1条2項に求償権の規定があります。 故意または重過失があれば、国が公務員個人──つまり今回はパトレンジャーの構成メンバーに対して求償できるという条文です。

明らかに避けられたのにビルごと撃ったとか、受ける必要がない攻撃をわざわざ受けたとか、そういうケースにはこの条文がかかってきます。

そういえばパトレンジャーの装備ってルパンレンジャーよりも重装甲という設定があったような気がするんですが……まさかそれ、国賠リスクを回避しつつ、隊員に求償状況を作る(受け止めれたよね?)ためだった?


取りっぱぐれリスクの話

この請求先が変わると、立証の基準も変わってくるんですが、何より被害者が賠償してもらえる期待値が変わります。

1000万円のビルが壊れたとして。そこらへんの素性も知れない、せいぜい20代前半の怪盗に請求をかけるのと、国家権力に請求をかけるのと、どちらが取りっぱぐれないか。…そりゃ国家権力ですよね。できれば、国家権力から取りたい! また、そもそも相手が誰かわからない怪盗に請求をかけること自体が大変ですし、彼らがお金を持っているかどうかもわからない。ルパンコレクションが換金できればまた話は別ですが、それはさておき。

つまり、ビルのオーナーとしては、ルパンカイザーが出てくるとちょっと困るわけです。パトレンジャーにぜひ出動してもらって、適法に怪人を退治してもらい、その過程で生じた損害は国に賠償してもらう。

その方が街の平和にとってはいいのかもしれないですね。

求償権と取りっぱぐれ ・国賠法1条2項:故意・重過失があれば国が公務員個人に求償できる ・被害者にとっては、請求先が国か個人かで回収の期待値が大きく変わる ・素性の知れない怪盗より国家権力の方が取りっぱぐれない


未解決問題:グッドクルカイザーVSX

さて、ここからおまけに近い未解決問題です。

スーパー戦隊シリーズにはお約束のスーパー合体があります。いわゆるクリスマス商戦ロボ。 スーパー合体とは、2台以上のロボットが合体して、より強力なロボットになるやつですね。ルパパトにもこれが存在しています。

その名もグッドクルカイザーVSX

名前から察した人もいるかもしれませんが、ルパンのロボットとパトレンジャーのロボットが合体して、両方が乗って、両方が操縦して戦います。

はい、大問題です。

操縦桿は両方が握っているので、どっちの責任かが切り分けられない。互いに共犯関係にはあるものの、賠償責任については互いに押し付け合う格好になりそうです。 国賠を提起されれば、国が「あの攻撃を外したのはルパンが操縦桿を倒したからだ」と主張し、ルパン側が「いやいや、弾を外したのはパトレンジャーの照準が甘かったからだ」と言い返す。とんでもなく醜い争いですが、まあ彼ら普段から対立しているのでそれはそれとして。

被害を被った一般市民からすれば、いいからとっとと賠償してくれ、という話です。

僕が知る限り、この状況を解決する判例は存在しません。 パトカーが乗用車を追いかけて、その乗用車が事故を起こしたときにパトカー側に責任があるのか、という判例はあるんですが、公務員と民間人が同時にハンドルを握った結果の損害、なんてケースはさすがに先行例がない。

これはおそらく未解決事件として置いておくしかないと思います。

【囲みボックス】合体ロボの未解決問題 ・グッドクルカイザーVSX=両戦隊が同時に搭乗・操縦する合体ロボ ・どちらの操縦が原因か切り分け不能 ・国賠と民法が同時に走る?先行判例なし


さらにおまけ:ルパンコレクションと営造物責任

もうひとつだけ。国賠法2条の営造物責任という論点にも触れておきます。公の施設の設置や管理に問題があったときに国が責任を取る、というやつですね。

実はルパンレンジャーとパトレンジャーの装備は、ルパンコレクションという共通の由来を持っています。元々はルパン家のお宝──つまり民間に由来する装備を、パトレンジャー側も一部それ使い回している構図なんですね。

先述したグッディなんかは、まさに使いまわしのアイテム。

これを「国が設置した営造物」と見なせるかどうかは結構グレーです。管理は警察がしているけれど、製造物としての出自はルパン側にある。ロボの設計不良や整備不良で被害が出た場合に、2条で国の責任になるのか。それとも製造元であるルパン側の問題になるのか。これもまた未解決ですね。


まとめ:同じ被害、違う請求先

今回は対立構造として一番わかりやすいルパパトを採用しました。整理するとこうなります。

  • パトレンジャーのロボが壊した場合 → 国に請求(国家賠償法1条)
  • ルパンレンジャーのロボが壊した場合 → 個人に請求(民法709条)
  • 合体ロボが壊した場合 → ……わからん

同じ番組の中で、どっちの戦隊が乗ったかで被害者の救済ルートがまったく変わる。フィクションの話に見えますが、実社会でも「損害を与えた主体が公か民かで制度が分かれる」というのは同じ構造です。

他の戦隊にも法的にややこしい連中が何チームかいるんですが、それはまた今度まとめて外伝にでもしようかなと思ってますので、よかったらまた見てください。

この記事のまとめ ・国家賠償法は、国や自治体の活動で損害を受けたときの賠償制度(たった6条) ・パトレン(公)が壊した場合は国賠法、ルパン(民)が壊した場合は民法で処理 ・合体ロボ・営造物責任など、制度の想定外にぶつかる未解決問題もある ・「損害を与えた主体が公か民か」で制度が分かれるのは、現実社会でも同じ構造

謝辞

雑談…ということで、弄り倒しましたが、ルパパトはちゃんと最後まで見てました。オンタイムで!!

展開としてはベタ且つ商業的な理由でちょっと残念なところはあったんですが、それはそれとして色々と舌を巻く部分もありました。水曜どうでしょうとか
舞台装置がどう考えても猫達の目なんですよね…三姉妹じゃないけど。

登場人物の名前設定とか、追加戦士の設定とか色々と子供にはわからんところでこだわってる感じが結構好きなんですよ。

なので、東映さん、ごめんなさい。

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この記事を書いた人

大阪を拠点に、建設業許可・在留資格・ドローン・障害福祉などの許認可手続きを中心に取り扱っています。
法律を専門的に学んだ経験を背景に、複雑な手続きの要点を分かりやすく整理し、実務でつまずきやすいポイントを拾い上げて紹介しています。
ときどき雑談や趣味の話題も交えながら、専門的な内容をできるだけ読みやすくまとめているブログです。

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