先日、「ルパパトで考える国家賠償法」という記事を書きました。
パトレンジャーのロボが壊したら国賠、ルパンレンジャーなら民法、合体ロボはわからん──という話だったんですが、ありがたいことにツッコミをいただきまして。
「パトレンの国賠上の違法ってそんな簡単に認定できるの?」
……鋭い。確かに前回はかなり大雑把に方向性を決めた上で進めていました。わかりやすさ優先で、ざっくりと。
というわけで今回はもう少しだけ踏み込んで、正確に読んでみようと思います。ひとつのテーマなのでそんなに大きく掘りませんが、もうちょっとだけお付き合いください。
前回の記事で決めつけていた2つのこと
前回の話では、パトレンジャーの活動について2つのルールを勝手に決めつけていました。
ひとつは、パトレンジャーがロボに乗って戦うのは正当な職務行為であるということ。 もうひとつは、その行為は違法であるということ。
国賠法1条は「公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは」という条文です。正当な職務行為であること、そしてそれが違法であること。この2つが揃わないと国賠の土俵に乗らない。
実はこの2つ、どちらも疑いがあるんです。順番に崩してみましょう。
国賠法1条の2つの要件 ・「その職務を行うについて」=正当な職務行為であること ・「違法に他人に損害を加えたとき」=その行為が違法であること ・この2つが揃わないと国賠法1条の土俵に乗らない
パトレンのロボ戦は「正当な職務行為」なのか?
国賠法1条は、公務員の正当な職務行為について適用される法律です。正当な業務行為でなければ、国賠の対象にならない。
で、巨大ロボで戦うのって、パトレンジャーの正当業務なんですかね。
皆さんからすれば「警察が平和を守るために戦うんだから当たり前でしょ」と思うかもしれません。 でも思い出してほしいのは、グッドストライカーが民間装備だということです。
パトレンジャーの本来の装備に巨大ロボは含まれていないんですよ。 トリガーマシンに乗って巨大な敵と戦うところまでは想定されているかもしれない。でも、人型のロボットに合体して殴り合うところまでは想定されてないんじゃないかなと。
想定を超えた活動をしているということになると、これを正当な業務行為として見ることができるのかどうか、疑問が出てきます。 当然ながら正当な業務行為でなければ、パトレンジャーのメンバーが勝手にやってることになっちゃうので、彼ら個人に対して民事の不法行為が飛んでくる。国賠じゃなくて民法の世界に落ちてくるんですね。
正当業務の疑い ・パトレンジャーの正規装備はトリガーマシン(車両) ・ロボの素体であるグッドストライカーはルパンコレクション由来の民間装備 ・正規装備にないロボでの戦闘は、職務権限を超えている可能性がある
じゃあ違法性はどうか?
仮にロボ戦が正当業務だとしましょう。 前回の記事では「違法だ」という前提で話を進めていましたが、実際のところ、違法かどうかは行為を個別に見ないと判定しにくいので、ざっくり違法と置いていたんですね。
端的に言うと、避けなくていい攻撃をわざわざ受けたとか、過剰な攻撃をして過剰な爆発を引き起こして周囲を壊したとか、そういう場合はおそらく違法認定になります。 普通に戦って、危ないものは避けて、受けるべきものを受け止めて、適度な火力で無力化する。ここまでであれば、おそらく違法にはならない。
ただ、ちょっと気になるのは……彼ら警察ですよね。警察なら逮捕が目的のはずなんですが、必殺技をぶちかまして爆発させるところまでは果たして過剰じゃないと言えるのか。 そこが正直わからない。
違法性の判定ポイント ・違法かどうかは行為を個別に見て判定する必要がある ・過剰な攻撃や不必要な被害拡大は違法認定の可能性あり ・正当な範囲内の対処であれば違法にはならない ・ただし「必殺技で爆発」は警察の逮捕目的として過剰では?という疑問も
さらに困る話:不作為の違法
実はもうひとつ困った話がありまして。
パトレンジャーのロボ戦が適法な正当業務だとすると、ルパンカイザーが出動した回にもうひとつ問題が出てきます。
前回の記事で話したとおり、ルパンカイザーが出動する場合、パトレンジャーは巨大ロボに乗れません。作中の都合でトリガーマシンに乗ることもない。つまり巨大マシンにもロボにも一切乗らない回が出てくる。
でも、ロボ戦が正当業務なら、怪人が巨大化した場合にパトレンジャーには治安維持として戦闘する義務があるはずですよね。それをしなかった、ということになる。
この「しなかった」を、法律上では不作為といいます。 違法というのは、何も「悪いことをした」だけじゃなくて、「正しいことをしなかった」場合にも成立することがあるんですね。不作為の違法というやつです。
グッドストライカーがルパン側についちゃって、巨大ロボという戦力を出せないとなったときであっても、パトレンジャーはその職務において巨大な怪人と戦わなければいけないんじゃないか。勝てないのがわかっていても戦わなければいけないんじゃないか。 ……いわゆる任務懈怠。なかなか厳しい話です。
パトレンジャー、どっちに転んでも詰んでいる
ここまでの話を整理すると、こうなります。
- ロボ戦が正当な職務じゃない場合 → 職務権限の逸脱。国賠1条に乗るかどうか自体が怪しくなる
- ロボ戦が正当な職務である場合 → ルパンカイザーが出動した回は不作為の違法。国賠の別ルートが開いてくる
どっちに転んでも詰んでる。
結局、一番困るのは誰か
そして一番困っているのは誰かというと、ビルを壊された人です。
請求の相手がまったくわからない。これは本当に困る。
パトカイザーがものを壊したとき、これが国賠なのかどうか議論を始めるところまではまあいいとしても。ルパンカイザーが出た回にビルが壊れたら、これはルパンに請求すべきなのか、それとも警察の任務懈怠として国賠で行くべきなのか、また別の議論をしなければいけない。
請求のハードルがガツンと上がっちゃうんですよね。 ルパンに請求しにくいというのは前回のとおりですし、かといって国賠のルートも一筋縄ではいかない。
果たしてどうやって請求していったらいいのか。 これはおそらく、ビルを壊された人たちが依頼した弁護士さんも頭を悩ませる、前代未聞の事例になっちゃうんじゃないかなと思ったりしてます。
この記事のまとめ ・パトレンのロボ戦が正当業務かどうかは、正規装備でない点から疑問がある ・正当業務でないなら国賠の土俵に乗らず、正当業務なら不作為の違法が生じる ・違法性の判定も、警察の目的(逮捕)に対して必殺技は過剰ではないかという論点がある ・被害者にとっては請求先の特定自体が困難──前代未聞の事例
もしかしてこの番組で一番つらいの、ギャングラーでもルパンでもパトレンでもなく、毎週ビルを壊される一般市民なんじゃないですかね。
前回の記事でも予告しましたが、宇宙から来た連中やら未来の公務員やら殿様の私兵やら、法的にもっとややこしい戦隊がまだ控えています。外伝もそのうち書きますので、よかったらまた見てください。


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