はじめに
在留資格について、少し特徴的な話をします。
近々相談会が予定されていまして、事前に検討材料が送られてきました。目を通しながら、お客さんはどこに不安を抱えているんだろうかと考えていたんですが、表面的な質問内容だけ見れば、正直、入管のホームページを見ればある程度わかる話も多い。それでも質問が来る。
もちろん「本当に知らなかった」というケースもあるでしょう。ただ、もう一歩進めて考えてみると、そもそも入管業務の情報ってどう捉えるべきなのか、というところに行き着いて、整理してみたら「確かにこれは怖いな」と感じる部分があったので、今回ついでにきれいにまとめておこうという趣旨で書いています。
行政書士が扱う「許可業務」の基本
僕たち行政書士が主に扱うのは、行政からの許可業務です。建設業許可、運送業の許可など、読んで字のごとく「この業務をやっていいですよ」という許可を行政から取ってくる仕事ですね。
在留資格も、言い換えれば「外国人が日本に入ってきていいですよ、日本で活動していいですよ」という証明ですから、広い意味では同じ許可業務の範囲に入ります。
ただ、僕たちの業界でも、入管業務とそれ以外の許可業務は「ちょっと別物だよね」という認識があります。次に説明するのが、その理由です。
普通の許可業務──要件が揃えば基本的に出る
建設業許可のような一般的な許可業務は、要件が揃っていれば基本的に許可が下ります。もちろん、経営業務管理責任者の「経験」をどう認定するかなど、多少の判断余地がないわけではありません。ただ、よほど変な嘘をついているとか、本人が隠している資料があるとかでない限り、要件が揃っていれば出ます。
これは行政法でいう「覊束裁量」という考え方で、行政がルールを定める段階ではもちろん裁量がありますが、定めたルールに則って要件が揃った以上は認めましょう、そこに恣意的な判断を挟むことは許されませんよ、という規制がかかっているからです。
なぜこうなっているかというと、そもそも人は本来自由だからです。国民の自由を、安全のためにあえて規制している。だから要件を揃えて「安全ですよ」と示せたなら、自由に戻す手続きにおいて恣意的な判断は許されない。そういう法律上の建付けになっています。
建設業許可などの一般的な許可業務は、法定要件を満たせば基本的に許可が出る構造。本来の自由を回復する手続きである以上、恣意的な判断は許されないという建付け。
在留資格──要件を揃えても「必ず出る」わけではない
他方で、入管業務はその限りではありません。条件を全部揃えたからといって、必ずしも許可が出るわけではない。ここにちょっとした不思議があります。
たとえば、この前話題にした経営・管理ビザの省令改正。資本金が500万円から3,000万円に上がりました。「3,000万円、揃えました」。日本語能力が要ります。「足りてます」。常勤雇用の従業員が必要です。「雇いました」。事業計画書を書いて承認をもらってきてください。「もらってきました」。
じゃあこれで許可が出るかというと、そうとは限らない。しかも、仮に許可が出るとしても、何年の在留期間が与えられるかは人によって違う。
なぜかというと、提出されたものに対して「どこまで許すか」という自由な裁量が認められているからです。事業計画がいい例で、税理士さんや公認会計士さんから「成立してますよ」と承認を得ていたとしても、将来的にどれくらい維持できるか、何年くらいやらせてもいいか、という判断は入管の職員さんの裁量にかかっている。
じゃあなんで建設業許可と違ってこうなるのか。これは僕個人の意見ではなく、制度の構造の話として聞いてほしいのですが、端的に言えば、外国人の在留に関する権利の性質が違うからです。日本国における自由は基本的に日本国民に向けられたもので、マクリーン事件が有名ですよね。外国人が日本に入ってきて活動するというのは、あくまで法令が──国会や日本国民が──許容する範囲内で認められているものです。生命・身体・財産のような普遍的な権利はさておき、日本に入ってきて営業する自由というのは相対的なもので、どこまで認めるかは日本国の裁量に大きく左右される。制度がそういう構造になっている以上、そう言わざるを得ない部分があります。
だから、同じように書類を揃えたのに結果が違う、というのは起こり得る。書類自体は揃っているんだけど、そこに何かしらの違いがある。たとえば学歴の違いだったり、事業内容の評価だったり。そういうところが効いてくるんだ、と理解してもらえればと思います。
在留資格の法定要件はあくまで「必要条件」であって、全部揃えても許可が保証される「十分条件」ではない。事業計画の評価をはじめ、入管には広い裁量が認められており、同じ書類を出しても結果が異なることがある。その背景には、外国人の在留が日本国の裁量に委ねられているという法的構造がある。
じゃあどうすればいいのか
裁量が入る以上、「これさえやれば確実」という正解はありません。ただ、裁量判断の中で不利にならないためにできることはあります。
まず、事業計画の数字に根拠をつけること。売上見込みを書くなら「なぜその数字なのか」を説明できる状態にしておく。同業他社の実績や市場データを調べて、自分の計画が絵空事ではないことを裏付ける。ここは専門家に頼まなくても、自分でできる部分です。
それから、提出書類を「審査する側の目」で読み直してみること。自分では当たり前だと思っていることが、書面上は何も説明されていないというケースは珍しくありません。事業の継続性に疑問を持たれそうなポイントを自分で洗い出して、先回りして説明を入れておく。
その上で、やはり他人の目を通すというのは有効だと思います。こういう話をするとCMっぽくなってしまうので正直あまり好きな言い方ではないんですが、行政書士なり弁護士なり、取次の資格を持っている専門家に見てもらって、客観的な視点を入れる。理由書や事業計画書を作る上で、「こういうところがポイントになるよ」「ここは書いておかないと悪く見られるよ」という勘どころは、やはりそこを専門にしている実務家が持っている部分です。決して安くはない報酬がかかりますが、その費用の中身はこういうところにあるのかなと。
ただ、一つ正直に言っておくと、行政書士が関わったからといって黒が白になったりはしません。そういう性質のものではない。仮に僕に依頼されたとしても、行政の裁量は回避しようがないので、ダメなときはダメです。
ダメなときはダメ。それを踏まえた上で、どう書いてあげたらいいか、どう表現してあげたらいいかと頭を悩ませるのが、僕たちの仕事かなと思っています。
まずは自分でできることから。事業計画の数字に根拠をつける、書類を審査側の目線で読み直す。その上で、裁量判断の勘どころを押さえた専門家の視点を入れることで、「不許可にする理由がない」申請に近づけていく。
もう一つ──不許可になったときの話
本筋からは少し外れますが、ここまでの話と地続きの実務的なポイントとして、不許可になってしまったときの話もしておきます。
不許可になったとき、「なぜこうなったのか」を入管に確認できる機会があります。基本的に1回だけ。本人が行くか、行政書士が行くか、一緒に行くか。「何が引っかかったんですかね」と確認して、再挑戦するならどこを修正すべきかを把握する。
こういうコミュニケーションの場面では、やはり日本語のネイティブかどうかで情報の受け取り方に差が出ます。外国人の方が日本語を学ばれているのは本当にすごいことですし感心しますが、情報交換のアクセント──言葉の強弱やニュアンスの拾い方──はどうしてもネイティブとの差が出てしまう。これは日本語に限らず、どの言語でもそうだと思います。
そういうところで損をしないために、僕たちを使っていただければいいんじゃないかなと思っています。
不許可時の入管とのコミュニケーションでは、制度の勘どころを押さえた上での日本語ネイティブの情報収集力が活きる。再申請に向けた戦略を立てる上で、専門家を介する実務的なメリットがある。
外部リンク
出入国在留管理庁「在留資格一覧表」 https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html
マクリーン事件(Wikipedia) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6
経営・管理ビザ省令改正(出入国在留管理庁公式) https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html


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