外国人の方が転職した、あるいはこれから転職させる予定がある。そのときに、「今持っている在留資格のままで、新しい職場の仕事をさせて大丈夫なのか」と引っかかっている方がいると思います。今回は、そういう場面で出てくる「就労資格証明書」という制度の話です。
就労資格証明書という言葉自体、あまり聞いたことがない人も多いと思います。なので今回は、制度の概要を簡単に説明したうえで、僕なりの考えも踏まえて紹介できたらと思います。
先に言っておくと、これは「取らないと働けない」という類の制度ではありません。それでも転職のタイミングで一度は引っかかる人が多いので、整理しておく価値はあるはずです。
就労資格証明書は、どんなときに使うのか
一番ポピュラーな場面は、就労系の在留資格を持っている外国人の方が、別の職場に転職した場合です。
外国人の方が就労系の在留資格を取るときには、多くの場合、
- どこの会社で
- どういう仕事をするのか
- その人自身の学歴や職歴と、その仕事の内容が合っているのか
というところを見られます。
つまり、本人の経歴と、勤務先で行う業務内容のマッチングを見たうえで、在留資格が出ている。これが基本的な立て付けです。
そうすると、その前提だった就職先が変わったときに、
- 今持っている在留資格のままで、新しい会社の仕事をしてよいのか
- 本人の経歴と、新しい職場での業務内容がちゃんと合っているのか
という問題が出てきます。
この点について、公的に確認してもらう制度が就労資格証明書、ということになります。
ポイント: 就労系の在留資格は「本人の経歴×勤務先の業務内容」のマッチングで出ている。だから就職先が変われば、その前提を確認する必要が出てくる。
在留資格そのものは、期限までは残る
ここが少し分かりにくいところです。
外国人の方が転職したからといって、今持っている在留資格がその瞬間に消えるわけではありません。
普通の許認可だと、事業内容や前提が変わったときに、許可そのものを取り直す、変更する、という制度設計になっているものもあります。在留資格もそれと同じだと思っている人がいますが、ここは違います。
在留資格の場合は、転職したからといって、今持っているものをその場で根本から更新し直す、という仕組みではありません。今持っている在留資格は、いったん在留期限まではそのまま残ります。
ただし、残っているからといって、新しい職場での仕事が本当にその在留資格の範囲内なのかは、また別の問題です。
その部分を証明するための制度として、就労資格証明書がある。そういう整理になります。
ポイント: 転職してもその瞬間に在留資格は消えない。期限までは残る。ただし「残っていること」と「新しい仕事が在留資格の範囲内であること」は別の話。
必ず取らなければいけないものではない
一方で、この就労資格証明書は、在留資格認定証明書や在留資格変更許可のように、必ず取らなければいけないものではありません。
ここが大きなポイントです。
絶対に取らなければいけないものではないので、「取った方がいいのか」「取らなくてもいいのか」という評価が、非常に分かれやすい制度でもあります。
ちなみに、外国人の方を雇用する際に、就労資格証明書を持っていないことを理由として、不当な扱いや不利益な扱いをすることは禁止されています。
つまり制度としては、
- 取ることはできる
- でも、取らないと働けないわけではない
- しかも、取っていないことを理由に不利益扱いしてはいけない
という、なかなか判断が難しい立ち位置にあります。
本当にこれを取る意味があるのかどうか、判断が分かれやすい制度になっている、ということです。
最近の審査の話
制度そのものの話から少し離れますが、前提として触れておきたいことがあります。
最近は、在留資格の審査や更新について、以前より厳しく見られているという感覚があります。本人の経歴と職務内容のマッチング、在留資格該当性、上陸許可基準適合性。そのあたりの確認が、以前より細かく見られているという肌感覚です。
これはあくまで現場で感じる観察の話で、「だから就労資格証明書を取るべきだ」という結論に直結させるつもりはありません。ただ、取る/取らないを考えるときの背景としては、頭の片隅に置いておいてよい流れだと思います。
「取らなくていい」という考え方
では、取らなくていいのか。
ここは正直、かなり意見が分かれるところだと思います。
昔から入管業務をされている先輩方に聞くと、「別に取らなくてもいいよ」という方もいます。
この考え方の大前提は、就労資格証明書が法的な義務ではないというところです。そして、これを取ったからといってどういう効果が生じるのかが、法律上はっきり明らかにされているわけでもありません。
少なくとも、「これを取っていれば次の在留期間更新で有利になります」という制度説明にはなっていません。あくまで制度の説明としては、外国人本人や雇用主が、その外国人の就労資格についての不安を解消するためのもの、という立ち位置です。
そうすると、
- そこまで大きな効果があるわけではない
- 次の更新のときにきちんと説明すればいい
- わざわざ今の段階で取らなくてもいい
という意見が出てくるのも、ひとつの見方としては分かります。
「取った方がいい」という考え方
他方で、取った方がいいという意見もあります。入管業務に精力的に取り組まれている先生のセミナーなどに行くと、こちらの意見を聞くこともあります。
この考え方は、制度がある以上、次の更新のときに「転職後の職務内容は本当に在留資格に合っていたのか」という点はどうしても確認される可能性がある、という発想です。
そのときに、就労資格証明書を取っておくことで、
- 自分たちはルールを無視しているわけではない
- 不安な点については、事前に入管に確認しようとしている
- コンプライアンス上、きちんと対応している
という材料にはなるのではないか、という評価です。
さきほど触れた審査が厳しくなっているという流れも踏まえると、「取れるものは取っておいた方がいい」という評価をする人がいるのも、これはこれで分かるところです。
ポイント: 取らない派の根拠は「義務でもないし効果も法律上はっきりしていない」。取る派の根拠は「確認される可能性がある以上、対応している材料にはなる」。どちらの理屈も成り立つ。
僕の立ち位置
では、僕自身はどう考えているのか。
先に、行政書士としての結論から言います。この制度については、専門家に聞いたからといって結論が変わる性質のものではない、というのが僕の認識です。
理由はシンプルです。取ったところで、次の更新の足しになるかもしれないし、ならないかもしれない。逆に、取らなかったことがマイナスになるかもしれないし、ならないかもしれない。どちらに転ぶかが制度上はっきりしていない以上、専門家として「取った方がいいですよ」とは、僕は言いません。言える材料がないからです。
なので、僕が依頼者にやることは、
- そもそも就労資格証明書という制度があること
- 必ず取らなければいけないものではないこと
- 取ったからといって、次の更新が必ず有利になるとまでは言えないこと
- ただし、取っていなかったことが後でまったく問題にならないとも言い切れないこと
このプラスとマイナスの両方を説明することです。そのうえで、実際に申請するかどうかは、外国人本人や雇用主の方に判断してもらう。これが僕の立ち位置です。
「必須じゃないなら説明しない」「どうせいらないから話さない」というのは違うと思っています。行政書士の役割は、制度や手続きをサポートすることで、申請するかしないかは最終的に本人や会社が判断することです。そのためには、まずそういう制度があることを知ってもらう必要があります。だから説明はする。でも、僕の側からどちらかに寄せて勧めることはしない。専門家として誠実に言えるのは、ここまでだと思っています。
ポイント: これは専門家に相談すれば答えが出る制度ではない。プラスもマイナスも不確定。だから「制度があること」と「どちらにも振れる可能性があること」を説明したうえで、判断は本人・会社に委ねる。
自分が事業者だったらどうするか
ここから先は、専門家としての判断ではなく、完全に僕個人の価値観の話です。さっきの話と地続きに読まれると困るので、はっきり分けておきます。
仮に僕自身が事業者で、外国人の方を転職で受け入れる立場だったら。たぶん、取ってもいいかな、という感じです。
ただしこれは、制度上の損得計算で「取った方が得だ」と判断しているわけではありません。さっき書いたとおり、損得は不確定で、そこは計算できない。そうではなくて、単に僕の性格の問題です。
僕は、やらなかったあとで「あれ、やっておけばよかったのかな」と思うのが一番もったいないと感じるタイプです。やってみて、それでもダメだったら、そこはもう仕方ないと割り切れる。でも、やらなかった状態で何か問題が起きたときに、「あのとき取っておけばよかったのかな」と思うのは、あまり気持ちがよくない。
だから僕なら取りに行くかな、という、それだけの話です。制度がそうさせるのではなく、僕がそういう人間だから取る。なので、これを誰かに勧めるつもりはありません。同じ不確定さを前にして、「必須じゃないならそこまでしない」と判断する人がいたら、それはそれで筋の通った判断だと思います。
さいごに
就労資格証明書は、必ず取らなければいけない制度ではありません。そして、取ったことで何が起きるかも、制度上はっきりしているわけではない。専門家に聞いても、そこの結論は動きません。
だからこそ、「必須かどうか」だけで判断する制度ではないと思っています。大事なのは、
- 取らなかった場合に、あとでどのような不安が残るのか
- 取ることで、どの程度の安心材料になるのか
そこまで含めて、最後は本人や会社の価値観で決める。そういう種類の制度です。転職後の業務内容と在留資格の関係に引っかかりがある方は、一度この制度の存在を思い出したうえで、自分なりにそこを天秤にかけてみてください。


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